今回は公共交通機関の運賃について考えてみます。
公共交通機関は比較的安価だと思います。これには反論も多くあるでしょう。運賃は高いじゃないのと。でもそんなことはないと、私は思っています。
要するに何と比較して「高い」と感じるのか、ということです。
東京から大阪まで行くケースを考えてみましょう。あまりにいろいろな手段と運賃がありますが、適当にいくつかピックアップしてみました。
○新幹線のぞみ号(通常期・普通指定席):14,050円
○飛行機(ANA・2008年12月搭乗分・普通運賃):24,700円
○高速バス(プレミアム昼特急・2階席):6,700円
ちなみに列車の最安値は、有名な青春18きっぷで2,300円(各駅停車利用・利用可能時期限定・購入単位は5人日分の11,500円)ですが、これはいわば臨時でいつでも使えるわけではないので、いつでもという話になると、普通に全部各駅停車で行った場合には運賃8,510円です。
新幹線の最安値(通常期)は、ぷらっとこだまエコノミープランの10,000円ちょうどですので、在来線の各駅停車で8,510円は実行する人は少ないと思います。
飛行機(ANA・2008年12月搭乗分)はビジネス特割で11,100円。この価格は早朝の特定便ですが、他の便でも最大14,100円で搭乗できます。
バスは夜行の青春メガドリーム号(閑散期)が3,500円です。
時期や条件を限定すれば、もっと安いケースも存在するかもしれませんが、いつでも乗れるという条件ではこのバスが最安値ではないでしょうか。

マイカーの場合こうした価格の比較は、主に通行料金と燃料で計算されているように思います。
東京-大阪の場合、東名-名阪の高速料金(便宜上、東京ICから豊中ICまで)が、10,850円(通常期・普通車)です。
ガソリン代は距離が524.2Kmなので、燃費が20Km/リットル、ガソリン単価135円/リットルとした場合約3,538円です。
合算すると14,388円になります。
ここで必ず話題になる大きな違いとして、公共交通機関の料金は人間1人あたりにかかってくるのに対して、車は車両1両あたりの値段で、単位が異なっているという点です。
ですので車両1両にたくさんの人が乗れば、マイカーの1人あたりの料金は安くなり、それを根拠にマイカーは安価であるとしている場合がほとんどです。
ETCの説明ページの料金比較にもこの方法論が使用されています。

私はこれに対して大きく異を唱えたいと常々感じています。
単位を変えてはだめです。それは条件を変えるということだから、だったら飛行機のビジネス特割や、列車の青春18きっぷも比較対象にしなければならないと思います。要するに「最安になるケースがある」という話です。
もともと手段が違うわけですから、同一手段で比較するか(列車は列車同士、飛行機は飛行機同士)、条件を揃える必要があります。
マイカーの場合、4人利用でも1人利用でも、前提として必ず大きく抜けている条件は、車両の本体価格、駐車場代、税金、保険料等の車の所有自体にかかってくるコストが計算されていないことです。
ほとんどの運賃比較で、この話はマイカーに限っては「ない(=0円)」ことにされています。これはとんでもない落とし穴です。
おそらくマイカーは誰もが(どの世帯も)持っていることを想定して、必要経費のように考えていると思います。車はかなりの普及率ですが、地域によって偏りがあると思いますし、それがいつまでも続くわけではありません。
かつて固定電話機がない家は珍しかったですが、今では携帯電話が普及して普通に存在します。またテレビも絶対にあるというイメージですが、昔ほどテレビに魅力があるとは思えませんし、ワンセグのようなものに取って代わられる可能性は十分にあり得ます。
ですのでコストとして発生しているものは、きちんと計算すべきです。

当たり前ですが、公共交通機関の運賃にはすべてこれらは含まれています。
運転士さんの事件費も、車両代金も、鉄道の場合には敷いてある線路にかかる保守費や税金も、すべて込みでの価格です(多くの鉄道だけが車両以外に土地や走る線路までコストに入っている。この点は大きく他の交通機関と条件が異なる)。ですからバス停や駅に行けば乗るだけで良いのです。
マイカーの人がこの料金を算出できる前提には、まずマイカーを購入しなければなりません(またはレンタカーでも良いでしょう)。
購入代金は一括や分割で、駐車場代は月額の費用なので、1台の車を買い換えるまでの期間分の総費用を走行距離で割るか何かして、加算する必要が出てきます。
それがいくらになっても良いのですが、この区間に限っては、バスの最安値が3,500円ですので、4人ではバスの方が確実に安いです。5人乗ってもバスの方が安いと思います。
ただしレンタカー利用なら、わりと近い価格になるのではないかと思います。

このように考えてみると面白いことに気がつきます。
バスを除いて、大人1人の利用という条件で揃えると、東京-大阪間は概ね14,000円程度の運賃か料金がかかる区間だということです。競争が進んで価格が落ち着いているのかもしれません。
一方で、所要時間ですが、空港までなら飛行機が一番速くて1時間。都市部発着なら新幹線と飛行機はほぼ同じで2時間半程度です。
これに対してバスとマイカーは倍以上の時間がかかります。バスはその分安いのですが、マイカーはそれでも14,000円台の料金を請求されると言うことになります。加えて第1回目で書いた事故のリスクも自己負担です。
この点からも、一概に公共交通機関が高いとは言えないことがわかります。

それからもうひとつ。公共交通機関が高いと感じるのは、長距離移動ではなく、近距離移動に対してではないか、とも予想しています。
東京-大阪のような移動は、一部のビジネスマンを除いては、年に何回もするようなものではありません。
一方で近くに買い物に行く、近隣の病院に行く、といった数Km程度の移動を考えます。
この距離では価格は多くて数百円台になります。これは非常に身近で親近感のある価格帯です。
100円と200円では倍も違います。100円ショップがあるのに運賃が200円もするという感覚も頷けます。
この距離では飛行機はあり得ませんので、選択肢は、バス、列車、マイカーくらいになります。代わりに自転車等が出てくるのではないでしょうか。
天気が良くて電動自転車がもっと普及すれば、自転車はかなり有力な交通手段であると思います。雨が降らなければ良いのですが。
この距離ではマイカーのイメージはかなり良くなるはずです。
持ってさえいれば、すぐに着けるし、有料道路も走らない。燃料費は数十円程度でしょうから、ランニングコストの部分は安いことがわかります。
ただし、車両本体価格等の概念が抜けていることは同じです。車を持っていて、自分で運転できることが条件です。リスクの問題も身近だけにかえって大きく存在します。
バスも電車も初乗り運賃は200円程度からのところが多いですので、マイカーのランニングコストと比較すると、高いように感じるのは仕方がないかもしれません。
100円と200円では倍も違うという料金帯ですので、その通りでしょう。

この点に対しては、私は正直なところ日本は発展途上だと感じています。はっきり書いてしまえば遅れているし、政治レベルでもちっとも考えられていないです。
例えば、大きな問題点のひとつとして、地域の公共交通機関の料金体系が、会社ごとに合算方式になっている点があるのではないでしょうか。
私は東京都区内に暮らしていますが、仕事にも買い物にも公共交通機関は十分便利です。
ところが運賃は高いと感じています。
各鉄道バス会社の料金設定は悪くないと思いますが、私の家から東京駅まで行くには、私鉄と地下鉄、または私鉄とJRを乗り継いで行かなくてはなりません。すると運賃は単純に合算されてしまい、割引は全くありません。
私鉄に200円程度支払って、地下鉄かJRにも200円程度支払います。地下鉄とJRはうまく調整してあるのか、どちらを使っても価格はほとんど差がないです。
仮にひとつの鉄道会社だけで行くことができたとすれば、運賃は高くても300円程度で済む距離です。

この問題はとても大きな欠点だと考えています。
東京都内に鉄道バス会社によって縄張りがあるのは、国や都などの政策レベルの取り決めもあってのことなのです。消費者には選択肢がなく、その手段しかないのです。
例えば、山手線内には地下鉄以外の私鉄はほぼ走っていません。周辺部から山手線内に出るには、必ず2社以上の運賃になり、単純に合算されてしまいます。
もっとひどいことに東京では、地下鉄が2社存在していて、こちらの料金も基本的に合算です。山手線内に行くだけで場所によっては3社合算の運賃を支払うことになり、金額はがつんと増えます。
この悪い仕組みのおかげで、山手線内を数カ所回って帰ってくれば1,000円を超してしまいます。ちなみにJR線だけで1,000円乗ると、60Km以上乗車することができる価格です。私鉄ならもっと遠くまで乗れるでしょう。
もっと驚くことがあります。場所によっては、全く同じバス路線(ルート)を複数の会社のバスが共同で運行しているケースがあります。
こういう路線でバスの定期券を買うと「共通定期券にしますか?」と聞かれるのです。最初は意味がわかりませんでした。
聞いてみると、共通定期券ならA社のバスでもB社のバスでも乗車できるのですが、各社の定期だと自社のバスでないと乗れないそうです。
ちょっと唖然としました。一定区間が重なっているのではなく、A社もB社も始発から終点を含めて全く同一経路なのです。私もそうでしたが、たぶんバス会社が異なるということ自体わからない人がいると思います。
走ってくるバスを見て、あ、何社のバスだと思う人は、私の同様のマニアだけで、最近は広告でいろいろな色のバスが走りますから、同じ行き先なら気にしないのが普通ですよね。
普通に考えたら、どちらにも乗れて当たり前なのではないでしょうか。
A社だけにしたら何かメリットがあるのですか?と尋ねたら「特にないです」とのこと。ますます意味がわかりません(A社定期の場合はA社バスにしか乗れないので不便になるだけ)。
料金が複雑なだけでなく、こういった事業者側の社内ルールのようなものを一般利用者に理解・選択させるシステムは極めて時代遅れです。

先進国の首都でありながら、こんなに複雑で利用者に何のメリットもないことをしている公共交通機関がたくさん走っているのは、世界で日本だけです。
ヨーロッパの主要都市などでは、均一料金区間があったり、一定区域内の移動に便利なきっぷがあったりと、もっとわかりやすい運賃体系になっています。そもそもこんなに多くの会社の路線が走っていません。
きっと外国の人が日本の鉄道に対して、もっとも難解だと感じているのは、この合算システムではないかと思います。
最近では、SuicaやPASMOが導入され、列車の相互直通も多くなっています。しかし、料金だけが単純合算です。勝手に運んでICカードからどんどんお金を吸い取られていくように感じてしまう人がいても、無理もないことだと思います。
せっかくのICカードがあるのだから、首都圏交通エリアとか都内交通エリアといったエリアを設定して、距離加算だけや乗り換え何回までは継続運賃というふうにしていただきたいです。