火の国の小さな鉄道(1)
阿蘇山と有明海に挟まれた街、九州熊本。
ここに小さな可愛い鉄道が走っています。熊本電鉄です。
熊本は市内を熊本市交通局が運行する路面電車が走っています。JR熊本駅前から路面電車に乗って繁華街まで行き、そこから街を少し歩くと熊本電鉄の藤崎宮前駅があります。
駅の名前にもある藤崎八幡宮はすぐ近くに鎮座しているのですが、駅は商業ビルに入ったパチンコ屋さんの奥にあります。
よく見ると「電車のりば」という看板が出ていますが、パチンコ屋さんの宣伝が派手なので見落としてしまいそうです。あやうく行き過ぎるところでした。
パチンコ屋さんに入るような形でゲートをくぐり、薄暗い通路を歩いていくと改札口があります。
向こうにホームがあって2両編成の電車が止まっていました。
ホームは乗車用と降車用の2本ありますが、線路は1本しかありません。来た列車が戻っていかない限り、次の列車は来られない状態です。
路線図を見てみましょう。
熊本電鉄には2本の路線があります。
ここ藤崎宮前から北熊本までの藤崎線と、上熊本から御代志(みよし)までの菊池線です。
ただし、実際の電車の運行は、藤崎宮前~御代志間をほとんどの列車が直通していて、北熊本~上熊本間が区間運行です。
一部の列車を除いて、上熊本へ行くには途中の北熊本駅で乗り換える必要があります。
御代志行きに乗車します。三連休でしたが車内の人はまばらです。
出発時刻になると運転士さんがやってきて発車。民家の軒をかすめるように走り出すと、いきなり路上に出ます。
えっ?地元の人でないとびっくりすると思います。
路面電車ではなくて普通の電車なのですが、踏切を越えたとたん、民家の玄関先と道路の境目がない場所をごろごろとゆっくり走っていきます。
人も車も鉄道も完全にバリアフリー状態で柵もないので、自転車とかが何かの弾みに電車に突っ込んでも不思議はありません。
たばこ屋さんの自家用車が店先に止まっています。車の後ろは電車の側方ぎりぎりです。
全国いろいろな鉄道に乗りましたが、こんなところを走る列車は初めてです。
路面電車ならこういうシーンもあるでしょうが、ずっと大きな普通の電車がガタゴトと走っていくのです。写真の家の大きさと比較しても、電車が大きいことがわかります。
かつて愛知県の犬山に、名古屋鉄道の普通の列車が車と一緒に路面を走る橋がありました。
地元だったので良く通ったのですが、そこでも橋の区間だけを、路面電車のように車道の中央を走るだけでした。
京阪京津線にも大型列車が道路の真ん中を走る区間がありますが、そこも道路の中央で、それなりに注意を促すペイントなどがあったように思います。
ここは家々の玄関前をかすめていきますので迫力があります。一歩外に出たらいきなり線路上です。
鉄道ファンならこういう場所に住みたいような気もしました。
ちなみに外から撮影した写真は、あまりに凄かったので電車を降りてから、わざわざ撮りに行ったものです。電車を撮影する私を、猫が怪訝そうな顔をして見ていました。
小さな駅をいくつか過ぎますが、どの駅も道路に面しているのではなく、道ばたの小さな空きスペースに隠れ家のようにして点在しています。こういうところを走るのは、なんだかわくわくします。
JR線の場合はどんなに小さな路線でも、もともと国鉄ですから一定の規格内にはまっているように感じます。しかし地方の私鉄は本当に地域密着というか、なんでこんなところを走るのだろうかという空間を抜けていきます。
まるで猫になって、民家の庭先を次々と移り変わっていくような走り方です。
北熊本駅に到着です。ここは沿線で最も大きな駅です。
構内には車庫があり、上熊本方面への線路が分岐しています。
日中は必ずここで接続があるダイヤになっていて、上熊本行き、藤崎宮前行き、御代志行きの3本の電車が、一同に会することになります。
乗り換えの人も多く、駅員さんもいて活気がありました。
北熊本を出ると、再び道路と民家の脇を走ります。
今度は道路との境目には一応ガードレールがあります。けれども相変わらず、距離は近いのです。
架線柱が木でできているのも時代を感じさせますし、踏切も多くが本当に鐘の音がするものでした。
たぶん普通の踏切の音しか聞いたことがない人がほとんどだと思いますが、スピーカーから出る電子音の「カンカン」という警報ではなくて、物理的に鐘を打ち鳴らすような「カチンカチン」という音なのです。火の見櫓みたいです。
やがて住宅地は少しずつ、今風の建築やマンションに姿を変えていきます。
そして幹線道路なのでしょうか。広い道の横を走ると、あっという間に終点の御代志です。
ここまで来た乗客は私一人。2両編成にたった一人で、ちょっと寂しいです。
ホームに降りてまたまたびっくり。ここもバリアフリーです。
駅前には道の他には何もありません。大きな建物もなく住宅が少しある程度。
駅のホームがそのまま駐車場になっています。
昔は行き違いのできる駅だったのでしょうか。片側のホームをつぶして広い駐車場にしたようです。
ホームには屋根がかかっていて椅子もありますが、椅子に座っている人は電車を待っていたのではなく、バスを待っていたのでした。バスが来ると全員が乗り込んでしまい、すぐに私一人になってしまいました。
乗ってきた運転士さんも脇の小屋に入ってしまい、私と電車だけがぽつんと取り残されたような雰囲気です。
電車の一部のドアは空いたままですが、誰も来ないし、静かな時間だけが過ぎていきます。
運転士さんが休憩する小屋の入口に置かれたペンギンの置物だけが、唯一の駅員さんです。しっかりと電車を見守っていて健気です。
時刻表を見てみましょう。
きっちり30分ヘッドのダイヤです。1時間に2本しかありませんが、私鉄ですので本数としては多いような感じも受けます。
でも生活に利用するには、最低でも倍の本数は必要でしょうね。
地元の人はこの電車のことを菊池電車と呼ぶそうです。そういえば路線の名前も菊池線でしたね。でも途中に菊池という駅はありませんでした。
実は昔はこの先の菊池温泉まで電車が走っていたそうです。しかし昭和61年にその区間が廃止になってしまい、ここ御代志が終点になりました。
現在は都市部のLRT化の構想があるようですが、費用の関係から計画は進んでいないようです。
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