白銀の寝台特急
2005年3月

 札幌への出張の帰路。休日とも重なったので、いつもとは違う経路で帰りたくなった。東京からの仕事にはいつも飛行機を利用している。今回は情緒あふれる列車でゆっくりと旅をしてみることにしよう。
 小学生の頃、旅行が好きで毎年夏休みに、日本全国に出かけていった。当時はブルートレインブームのまっただ中であった。ブルートレインとは、国鉄が走らせていた寝台特急列車の愛称である。機関車に牽かれていた寝台客車が青一色をしていたことから、そう呼ばれていた。料金も高く、決して寝心地やサービスが良いとは言えない寝台で、今ではすっかり本数も減ってしまったが、その頃は寝台車自体が高級感があり、走るホテルとまで言われた豪華特急列車である。
  そんな往年のロマンをかき立てられる一本の列車が、ここ北海道にはある。東京の上野と、北海道の札幌を結ぶ寝台特急「カシオペア号」だ。
  昭和63年、本州と北海道を繋ぐ青函トンネルが開業すると、札幌行きの寝台特急「北斗星」が新設され、人気を博した。北斗星の車両はブルートレインであったが、より豪華で優雅な旅ができるようにと、同じルートながら、新しく専用客車を製造して作られた列車が「カシオペア」である。
  カシオペア号は平成11年7月に登場。「カシオペア」の名前は、天空に輝く北斗星(北斗七星)と、北極星のある天頂を挟んで対称に位置する星座から付けられた。いわば北斗星と組になっている列車であるが、北斗星が毎日運行される定期列車であるのに対して、カシオペアは専用列車が1編成しか存在しないため、週3便程度の不定期運行となっている。
  カシオペア号は従来の寝台特急と大きく異なり、オール2階建て個室寝台のみの客車で構成されている。車体も白銀色にカシオペアを表す5本のグラデーションラインが入った高級感あるデザインである。先頭と最後尾の車両には、展望室タイプの個室「カシオペアスイート」とラウンジカーが設定され、車窓の風景を楽しめるようになっている。走るホテル、再び。私にとってカシオペアとは、そんな列車なのだ。

札幌駅で出発を待つカシオペア号。
札幌発の最後尾は展望ラウンジ。

出発当日の札幌市。
吹雪の中、時折市街が顔を見せる。
直下が札幌駅。
上方が(線路では)東京方面になる。

 

雪原の大地から、春の大都会へ

 3月半ば。北の大地はまだ吹雪いていた。カシオペア号の始発駅札幌も、今日は真っ白い霧の中に霞んでいる。その4番ホームに、銀の寝台特急がゆっくりと入線してくる。大きな荷物を抱えた人たちは列車を背景に記念撮影に忙しい。みんなの夢と期待を乗せて、一路春の大都会へと向かうのだ。

 そして、午後4時15分。カシオペア号は、ゆっくりとプラットホームを離れていく。定刻より3分遅れての出発。雪のため、空港からやってくる列車の到着を待ってから発車したためである。上野まで約17時間の長旅の始まりだ。
  札幌を出た列車は、太平洋岸にある苫小牧を目指して、徐々に速度を上げていく。苫小牧からは太平洋に沿って、登別、洞爺、長万部、函館と南下。その後、青函トンネルを通過し、青森へ。青森からは東北本線を、盛岡、仙台、福島、宇都宮、大宮と走り抜けて、終着上野へというルートである。

 客車は全部で12両連結されている。現在、先頭はディーゼル機関車のDD51が重連で引っ張っているので、列車全体は14両編成。函館までこの状態だ。ちなみに先頭に立っているDD51型機関車は、昭和30年代に国鉄が生んだディーゼル機関車の名機で、最盛時には600両以上が日本各地で活躍していた。性能と低コストを両立しており、北斗星をはじめとする特急列車にも使用されている。
  札幌を出発するとすぐに、アテンダントがワインとウイスキーのセットを持ってやって来た。ここでウェルカムドリンクのオーダー(もう既にワインが出てきているのだが)、夕食の予約確認、そして朝刊とモーニングコーヒーの配達時刻を伝える。続いて車掌さん。検札をしてもらい、同時にJR北海道限定販売のカシオペア号乗車証明書、青函トンネルの通行証明書の付いたオレンジカード(JRの切符を買うためのプリペイドカードのこと)を購入する。
  大きな窓辺のソファに座り、ワインをグラスに注ぐと、いつの間にか車窓には、青空の下に広大な雪原が広がっていた。列車が巻き上げる粉雪が白煙となって後方に流れていく。

 カシオペア号には、3タイプの部屋が用意されている。上野行きの場合、先頭の1号車はスイート。 特に一番先頭部分は展望室タイプになっている。この部屋は大変人気が高く、チケットは発売後数分で売れてしまうためほとんど取れない。他のスイートは2階建て構造で、1階がベッド、2階がソファのあるリビングになっている。列車内だが各室にはシャワーとトイレも付いている。
  2号車にはスイートの他に、今回私が乗っているデラックスがある。実はデラックスも1室しかないので、なかなか貴重な体験である。この部屋は2階建てにはなっていないが、その分天井が高くなっている。やや広めの室内には、窓際にソファセットとテーブルがあり、ベッドが2つ用意されている。ソファはベットにすることもできるので、最大3人まで利用できる部屋である。スイートと同様、シャワーとトイレ、クローゼットも完備している。細かい設備では、BSテレビ、カーナビ、BGM放送を切り替えられるテレビと、食堂車への直通電話、インターホン、車掌室への緊急呼出ボタン等があり、車内放送の音量調節もできるようになっている。その他、スリッパ、タオル、寝巻、歯ブラシ、櫛、シャンプー等の入ったアメニティバッグなどが用意されていた。部屋のドアは暗証番号でロックがかけられるようになっているので、先ほどのように車掌さん等がやって来た場合には、インターホンが鳴る。また、外に車内販売の人がやって来ると、お知らせのランプとチャイムが鳴る仕組みになっているのも面白い。
  3号車はダイニングカー。食堂車である。夕食は完全予約制だが、朝食は予約なしで利用でき、夜間にはパブタイムもある。
  4号車から11号車まではツイン。2階建ての1階と2階とが、それぞれ個室になっており、二人用のソファとベットがある。カシオペア号のほとんどはこのタイプの部屋だ。
  最後尾12号車はラウンジカー。小さな売店と展望ルームになっている。展望ルームは、長いソファや椅子がいくつかあり、左右だけでなく、後方の大きな窓から180度の眺望を見ることができる。

  グラスを傾けるうちに、列車は太平側へと抜け、苫小牧が近づく。空が茜色に染まってきたので、そろそろ最後尾の展望車へと移動することにした。車内を歩くこと数分。2号車からはるばるやって来るのは、なかなかの運動である。
 展望ラウンジには既に何名かの乗客が三々五々座って、流れていく景色を堪能していた。白一色の世界の中、銀のレールが2本。どんどんと流れていく様子は見ていて飽きない。新婚の記念にというカップル、列車の旅が好きで世界中乗っているという熟年の親父さん、北海道旅行に来たご婦人の団体。みな子供のようにはしゃいでいて、すぐに仲良くなれた。
  苫小牧を発車してほどなく、車掌さんがラウンジにやってきた。別に検札するわけではなく、JR北海道の車掌さんの上着を着て、記念撮影しませんかと。乗客サービスの一環なのだが、この車掌さんの場合、けっこう好きでやっているそうだ。話を聞くと、今までも天皇陛下のお召し列車や、アイドルの専用貸し切り列車等、様々な列車で車掌として乗務した経験があるとのこと。一番の宝物は、映画「鉄道員」の撮影に来た高倉健さんにサインをしてもらった、カシオペア号のダイヤグラム(業務で使用する列車の時刻表のこと)。実物を見せてもらった(見せびらかされた?)が、本当に現在乗っている列車のダイヤの裏側にサインがしてある。「これはすごい価値ですよ。カシオペアの本物のダイヤに、高倉さん直筆のサインが入っている世界でひとつしかないもの。鉄道ファンのオークションに出したら言い値で相当な額になります」に一同大笑い。
  ところで、いま私たちが走っているこの線路。ちょうど苫小牧から室蘭の少し手前までの区間は、日本一長い直線区間なのだそうだ。そう言われて後ろを見ると、確かに延々と地平線まで真っ直ぐにレールが続いている。約28Kmも直線のままなのだそうだ。
  談笑に時を忘れていると、樽前山の向こうに夕日が沈み、夜の帳が降りてくる。一度部屋に戻って、暮れゆく太平洋を見ながら、飲みかけのワインを空けるとしよう。

LEDの行き先は
遙か遠い上野駅になっている。

カシオペア・デラックスの室内。
インターホンやカーナビ
も装備されている。

同室内の全景。
画面手前側にはシャワー室もある。
JR北海道限定カードセット。
乗車証明証になっている。

雪原に沈みゆく夕陽

製紙の町、苫小牧に到着

 

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