一夜明けて2日目。朝食を済ませたら、宿の人に島の最北端『スコトン岬』まで送ってもらう。
今日はまず、このスコトン岬からスカイ岬まで、島の西側を約4時間ほどかけて歩く『4時間コース』にチャレンジする。
礼文島では、集落のほとんどは島の東側に集中しており、道路も東側にしかない。島の西側には車が通行できるような道はなく、徒歩か、場所によっては船で送迎してもらわなければならない。スコトン岬から、昨日訪れた地蔵岩までは、歩いて約8時間ほどかかる。本当は全部歩きたいのだが、日程の都合上、北から3分の1程度のスカイ岬まで行き、そこからはタクシーで香深港に戻るつもりだ。
スコトン岬では早朝から昆布採りの船が多数出て漁に励んでいた。友人が宗谷岬のメロディを鼻歌で口ずさみながら歩いていくが、ここは宗谷岬と緯度的にはほぼ同じくらい北になる。(正確には宗谷岬の方が1分だけ北にあるそうだ)
驚いたことにスコトン岬の本当に先端には、岩の下に張り付くようにして1件の民宿があるのだ。ぱっと見た目にはわからないので「上から石を投げないでください」といった注意書きまでされている。ちょっとのぞいてみると、飼い犬が窓からこちらを見上げている。まさに最北端の宿という雰囲気で、次回はぜひ宿泊してみたいと思った。
いよいよ4時間コースのはじまりだ。最初は一般道路に沿って歩く。ここだけ歩道がついていると思ったら、集落の中にスコトン小学校があった。日本の教育に対するこうした姿勢は本当に頭が下がると感心していたら、この小学校、生徒数が減少して5年ほど前に廃校になってしまったそうだ。
小学校の先でメイン道路から分岐して、西の海岸線に沿って、なだらかな起伏を進む。途中に神社があるのだが、この地方は冬が厳しいのだろう、どの神社も本殿が建物の中に収納されているのが珍しい。小さな社だが、地元の人に愛されていることを感じる風情だ。
ひとつ目の丘を越えると分岐点に出た。左はトド島展望台へと続く丘陵越えのコース。右は入り江へと降りていく海岸線のコース。なんとなく右の入り江にこぢんまりと佇む集落に心惹かれたので、砂利道を下ることにした。
わずか数件の建物しかないこの集落の名前は『鮑古丹[あわびこたん]』。古丹=コタンとは、アイヌ語で「村」を意味する言葉だから『アワビ村』というわけだ。『アワビ』はアイヌ語ではないだろうから、本当は「東京ドイツ村」みたいな和洋折衷したハイカラなネーミングなのかもしれない。
しかし、この光景はどうだろう。なんともアワビ村の名前にぴったりである。
村民とおぼしき夫婦が昆布を干しに精を出す海辺を歩いていくと、バイクに乗った一人旅のおじさんが話しかけてきた。聞くと、海から顔を出しているアザラシを見ているのだという。
確かに入り江をよくよく観察していると、岸から20〜30メートルほど離れたところに、ひょこひょこと顔を出している生物がいる。カメラの望遠レンズで覗くと、はたして野生のアザラシであった。
アザラシは1頭ではなく、数頭が一定の間隔に並び、海の上にぷかぷかと浮かんでいる。何をしてるのかはわからなかったが、日本でも野生のアザラシを見ることができるとは、アワビ村はまさに絵本の世界のようだ。
鮑古丹を抜けると、道は再び上り坂になる。ここから先は笹をかき分ける散策路で、車はおろかバイクすらも通行することができない。汗をかきながら笹山を登りきると、そこはゴロタ山の頂上だった。
左右に入り江が広がっている。海の色はエメラルドグリーンで、海底まで澄み渡り、昆布がたなびいている様が見える。
ゴロタ山を駆け下りてゴロタの浜に出る。ここでは穴が開いた貝殻がたくさん落ちている。天敵の鳥が貝の殻に穴を開けて食べてしまうので、そういう貝が残るのだという。
ゴロタの浜では干されたばかりの昆布が一面に広がっていた。ふつう海と言ったら潮の香りがするのだが、礼文島の浜辺は一様に昆布の香りがある。潮の香りがかき消されてしまうほど、昆布が多いのだ。
農家の庭先を通りかかると猫がうたたねをしていた。こんなに北でも猫は人間と一緒に暮らしているようだ。
この島ではやや大きな方に分類されるであろう漁港を過ぎると、また岬の峠を越えていく。
汗だくになってスカイ岬に辿り着く。絵に描いたようにきれいな風景だが、ここに限らず、島の西海岸はどこも大変きれいな景観なので、ぜひ歩いていただきたい。
待っていてくれたタクシーに乗って、昼過ぎに香深港に戻った。船上の人となり利尻島へと渡る。
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